本記事は学習用です。作成には ChatGPT と GitHub Copilot を使用しています。
1. 導入:利用時の品質が扱う範囲を固定する
利用時の品質モデルは、「実際の利用状況(ユーザー、目的、環境、運用条件)」の中で、製品・システムがどれだけ目的達成に寄与するかを評価する枠組みです。ISO/IEC 25010 は品質モデルを「製品品質」と「利用時の品質」に分け、後者をユーザー視点の成果として扱います。
実務で重要なのは、利用時の品質を「UIが使いやすいか」だけに限定しない点です。ISO/IEC 25010 の利用時の品質は、有効性・効率性・満足性・リスク回避性・利用状況網羅性 の5特性で構成され、UX(User Experience)や業務影響、リスクも含めて評価します。
2. モデル全体像:5特性と副特性を「測れる形」に変換する
2.1 利用時の品質(Quality in Use)の5特性
ISO/IEC 25010 では利用時の品質を5特性に分類します(英語表記は規格側の用語です)。
| 特性 | 英語 | 意味(実務での言い換え) | 代表的な観測対象 |
|---|---|---|---|
| 有効性 | Effectiveness | ユーザーが目的を達成できる度合い | タスク成功率、完了率、正確性 |
| 効率性 | Efficiency | 目的達成に必要な資源(時間・操作・コスト)がどれだけ小さいか | タスク時間、操作数、待ち時間 |
| 満足性 | Satisfaction | 体験が期待を満たし、納得できるか | 満足度、継続意思、信頼 |
| リスク回避性 | Freedom from risk | 利用に伴う損失・危害・環境影響を抑えるか | 誤操作損失、事故、法令違反 |
| 利用状況網羅性 | Context coverage | 想定内外の状況でも上記を維持できるか | 端末差、回線差、利用者差 |
※「利用状況網羅性」は JIS X 25010:2013(ISO/IEC 25010:2011 のJIS化)でも定義を確認できます。(kikakurui.com)
2.2 副特性(サブ特性)まで落として「評価観点」を固定する
利用時の品質はさらに副特性を持ちます。代表例として、満足性は「有用性・信頼・快さ・快適さ」、リスク回避性は「経済・健康安全・環境」などに分かれます(分類の枠は ISO/IEC 25010 のモデルに基づきます)。
※規格本文は有償のため、実務では「副特性の名称」よりも「何をリスク/満足として測るか」を先に決める運用が現実的です。
2.3 「ユーザビリティ」との関係(混同を避ける)
ユーザビリティ(Usability)は ISO 9241-11 の枠で「有効さ・効率・満足度」を中心に定義されます。(日本規格協会 JSA GROUP Webdesk)
利用時の品質は、ユーザビリティの3要素を含みつつ、リスク回避性 と 利用状況網羅性 を加えた拡張と捉えると整理しやすくなります。
3. 重要になる理由:製品品質が高くても、利用時の品質が崩れる典型パターン
3.1 製品品質(開発者視点)だけでは「成果」を保証できない
製品品質(例:性能効率性、信頼性、セキュリティなど)を満たしても、利用現場で目的達成できなければビジネス上の品質は下がります。ISO/IEC 25010 を解説する資料でも、利用時の品質と製品品質を分けて考える前提が示されています。(IPA)
具体例:
- 入力画面が高速で落ちない(製品品質)一方、入力項目の意味が理解できず誤入力が多い(有効性低下)
- セキュリティ制約が強すぎて業務が迂回し、結果的にシャドーITが発生(効率性・リスク回避性の逆転)
- 主要ブラウザでは快適だが、モバイル回線や支援技術で操作不能(利用状況網羅性の欠落)
3.2 利害関係者が「一次利用者」だけではない
利用時の品質の評価では、直接操作する一次利用者だけでなく、運用・保守などで支援する二次利用者、出力を受け取る間接利用者も視野に入れる整理が実務上有用です。(大塚商会)
例:会計SaaSで、経理担当(一次)・情シス(支援)・管理部門(間接)で「満足性」や「リスク」の中身が変わる。
4. 方法:利用状況を定義し、品質特性を「要求」に変換する
4.1 利用状況(コンテキスト)を分解するテンプレ
利用時の品質はコンテキスト依存のため、まず利用状況を分解して文章で固定します。
- 利用者:役割、熟練度、支援技術の有無、認知特性
- 目的:達成すべき成果(例:申請を期限内に提出)
- タスク:目的を構成する操作系列(例:検索→入力→確認→送信)
- 環境:端末、OS/ブラウザ、回線、騒音、移動中、業務時間帯
- 制約:法令、SLA、監査、プライバシー、セキュリティ規定
この分解は、JIS X 25010 が「明示された利用状況」や「想定を超越した状況」も含むとする考え方と整合します。(kikakurui.com)
4.2 要求への落とし込み例(ECの購入フロー)
例として「ECで購入完了」を目的に置きます。
- 有効性:購入完了率($SR=\frac{\text{成功タスク数}}{\text{実施タスク数}}$)
- 効率性:購入完了までの時間 (T)、操作回数 (A)、待ち時間 (W)
- 満足性:購入後アンケート(満足度、信頼、継続意思)
- リスク回避性:誤課金率、返金率、不正利用検知率、個人情報漏えいゼロ
- 利用状況網羅性:低帯域/小画面/支援技術でも $SR$ と $T$ を許容範囲に維持
ここで重要なのは、「特性名」ではなく「合否判定できる閾値」を置く点です。
5. 測定設計:ISO/IEC 25022 の思想で「指標・手段・頻度」を決める
ISO/IEC 25022 は、ISO/IEC 25010 の利用時の品質特性に対して測定量(measures)を定義し、測定方法の説明も含む規格です。両者を併用する前提が示されています。(ISO)
※測定量の細目は規格本文(有償)に依存するため、ここでは「実務で再現できる測定設計」に翻訳します。
5.1 測定の3レイヤ(推奨)
- 実利用ログ(テレメトリ):日次で追える。母数が大きい。
- ユーザーテスト(観察):原因が分かる。頻度は低い。
- アンケート・インタビュー:満足性・信頼・不安を補足する。
IPAの資料でも、利用時の品質評価(UX評価)と、製品品質側の「使用性」評価(ユーザビリティ評価)を分けて扱う整理が示されています。(IPA)
5.2 指標カタログ(最小セット)
| 特性 | 最小限の定量指標 | 代表的な収集方法 |
|---|---|---|
| 有効性 | タスク成功率、エラー率、再試行率 | ログ、観察 |
| 効率性 | タスク時間、待ち時間、ステップ数 | ログ、RUM(Real User Monitoring) |
| 満足性 | CSAT(満足度)、継続意思、信頼 | アンケート、定性 |
| リスク回避性 | 誤課金/損失率、重大インシデント件数 | 監査ログ、運用記録 |
| 利用状況網羅性 | 条件別の成功率差(端末/回線/支援技術) | セグメント分析、テスト |
※NPSやSUS等の指標は業界で広く使われますが、ISO/IEC 25010 の公式指標そのものではありません。組織の標準に合わせて補助指標として採用されるケースが多いと考えられます。
5.3 「利用状況網羅性」を測るためのセグメント設計
利用状況網羅性は「全体平均」では見えにくくなります。以下のように分割して比較します。
- デバイス:モバイル/PC、画面サイズ
- 回線:低帯域/高帯域
- 利用者:新規/熟練、支援技術利用の有無(可能なら)
- 失敗モード:オフライン、タイムアウト、権限不足
JIS X 25010 の「利用状況完全性」「柔軟性」などの記述は、この分割測定を求める方向性と整合します。(kikakurui.com)
6. 実装例:ログとユーザーテストで「有効性・効率性」を可視化する
6.1 ログ設計(イベントの最小形)
タスク単位で開始・完了・失敗を記録すると、成功率と時間を計算できます。
task_start(user_id, task_id, context...)task_end(user_id, task_id, result=success/fail, error_type, duration_ms, context...)
※プライバシーの観点から個人情報は避け、匿名IDや集約単位を使います。個人情報保護、電気通信事業法、医療・金融規制などは法務・セキュリティへエスカレーションします。
6.2 SQL例:タスク成功率と中央値時間
-- 購入タスク(checkout)の成功率と時間を日次で集計
WITH task AS (
SELECT
date_trunc('day', ts) AS d,
user_id,
task_id,
max(CASE WHEN event = 'task_start' THEN ts END) AS start_ts,
max(CASE WHEN event = 'task_end' THEN ts END) AS end_ts,
max(CASE WHEN event = 'task_end' THEN result END) AS result
FROM task_events
WHERE task_id = 'checkout'
GROUP BY 1,2,3
)
SELECT
d,
count(*) AS trials,
sum(CASE WHEN result = 'success' THEN 1 ELSE 0 END) * 1.0 / count(*) AS success_rate,
percentile_cont(0.5) WITHIN GROUP (ORDER BY extract(epoch from (end_ts - start_ts))) AS median_seconds
FROM task
WHERE start_ts IS NOT NULL AND end_ts IS NOT NULL
GROUP BY 1
ORDER BY 1;
この集計で、有効性(成功率)と効率性(時間)を日次監視できます。ISO/IEC 25010 の「有効性」「効率性」という枠に対応付けやすくなります。
6.3 Python例:利用状況網羅性の差分(セグメント比較)
import pandas as pd
df = pd.read_csv("task_daily.csv") # d, segment, trials, success_rate, median_seconds
# 例:回線種別(low_bandwidth / normal)で成功率差を算出
pivot = df.pivot_table(index="d", columns="segment", values="success_rate")
pivot["gap_low_vs_normal"] = pivot["low_bandwidth"] - pivot["normal"]
# 閾値例:成功率差が -3% を下回る日を検知
alerts = pivot[pivot["gap_low_vs_normal"] < -0.03]
print(alerts.tail(10))
「どのセグメントで品質が崩れるか」を先に特定すると、改善が要件(利用状況網羅性)に直結しやすくなります。(kikakurui.com)
6.4 ユーザビリティテスト(観察)で原因を確定する
ログで「成功率が落ちた」「時間が伸びた」までは把握できますが、原因の特定には観察が有効です。ユーザーテストを「手順化した実務ガイド」として進める際は、ユーザビリティテストの設計・実査・分析を扱う書籍が参考になります。(オーム社)
ユーザーテスト設計の最小セット:
- タスク:ログで落ちているタスクをそのまま使う
- 成功条件:完了定義を明文化(例:注文確定画面まで到達)
- 測定:成功/失敗、時間、迷い(発話・視線・操作停滞)
- 参加者:想定ユーザーの属性を合わせる(新規/熟練、端末差)
7. 注意点・よくある誤り:指標が増えても品質が上がらない理由
7.1 「満足性」をアンケート1問で済ませる
満足性は主観的で、UIの好み・価格・期待値・直前の障害などに影響されます。ISO/IEC 25010 は満足性を主要特性として扱いますが、実務では「信頼」「快さ」など要素を分けると解釈しやすくなります。
対策:最低でも「満足」「信頼」「継続意思」を分け、自由記述で理由を取る。
7.2 効率性を「処理性能」だけで代替する
処理性能(レスポンス)は効率性の一部ですが、効率性にはユーザー側の資源(手戻り、操作数、確認負荷)も含まれます。性能改善だけでタスク時間が縮まらないケースも見られます。
対策:待ち時間(システム要因)と操作時間(ユーザー要因)を分離して測る。
7.3 リスク回避性を「セキュリティ」だけに閉じる
リスク回避性は、経済・健康安全・環境といった広い影響を含みます(製品の影響を扱います)。
対策:ドメイン別にリスク項目を棚卸しする。例:金融なら誤送金、医療なら誤投薬につながるUI、B2Bなら監査不備。
7.4 利用状況網羅性を「対応ブラウザ一覧」で終える
対応表だけでは、実際に有効性・効率性・満足性を維持できるかが分かりません。利用状況網羅性は「状況における成果」を問います。(kikakurui.com)
対策:セグメント別の成功率差・時間差を継続監視する。
7.5 計測がプライバシー侵害になる
利用時の品質のためのログは、粒度を上げすぎると個人特定・行動追跡になり得ます。
8. まとめ:利用時の品質を「要求→測定→改善」のループに組み込む
- 利用時の品質モデルは、ユーザーの成果として 有効性・効率性・満足性・リスク回避性・利用状況網羅性 を扱います。
- 実務では、利用状況(ユーザー・タスク・環境)を先に固定し、特性を「合否判定できる要求」に変換します。(kikakurui.com)
- ISO/IEC 25022 は測定量を整備する規格で、ISO/IEC 25010 と併用する前提が示されています。これを踏まえ、ログ・観察・アンケートの3レイヤで測定設計すると運用しやすくなります。(ISO)
- 「利用状況網羅性」は平均値に隠れやすいため、セグメント分析と閾値監視が有効です。(kikakurui.com)
A. 参考サイト
- IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)「システム及びソフトウェアの品質測定量とその測定方法」(JIS X 25010に基づく図・解説を含むPDF)(IPA)
- IPA「つながる世界の利用時の品質」(利用時の品質評価とUX評価の整理を含むPDF)(IPA)
- JIS X 25010:2013(利用時の品質・利用状況網羅性の定義が読めるページ)(kikakurui.com)
- ISO/IEC 25022:2016(quality in use measures の規格概要)(ISO)
- ベリサーブ(VeriServe)「ソフトウェア品質特性とは?ISO規格や活用例」(実務寄りの解説)(veriserve.co.jp)

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